自宅で介護してほしい。その希望を書く前に考えておきたいこと

はじめに
エンディングノートを書くと、
「できるだけ自宅で介護してほしい。」
と書かれる方は少なくありません。
私は、そのお気持ちはとても自然なことだと思います。
長年暮らしてきた我が家。
子育てをし、家族との思い出が詰まった家。
ご自身で建てた家であれば、なおさら愛着もあるでしょう。
「最期までこの家で暮らしたい。」
そう思われる方はたくさんいらっしゃいます。
一方、ご家族も、
「親がそう望むなら、その願いをかなえてあげたい。」
そう思われるのではないでしょうか。
親を大切に思うからこその気持ちです。
また、今でも
「親の面倒は子どもが見るもの。」
「できることなら家族で支えたい。」
という考え方は、多くのご家庭に根付いています。
その思いは、とても尊いものだと思います。
私は、そのどちらの思いも大切にしたいと考えています。
だからこそ、その希望をエンディングノートへ書く前に、少しだけ考えてみていただきたいことがあります。
介護は思っているより長く続くことがあります
「最後まで自宅で介護してほしい。」
そう書く前に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
公益財団法人生命保険文化センターの調査では、介護期間の平均は4年7か月です。
また、10年以上介護が続いた方も約3割います。
さらに、平均寿命と健康寿命には差があります。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活に制限なく過ごせる期間のことです。
実は広島県では、2016年公表のデータで**女性の健康寿命が全国最下位(熊本県を除く)**となり、大きな話題になりました。
その後、県も健康づくりに力を入れ、令和4年(2022年)の調査では全国13位まで改善しています。
それでも、多くの方は人生の最後に何らかの支援や介護を必要とする可能性があります。
つまり、
「最後まで自宅で介護してほしい。」
という一言は、
数日や数週間ではなく、何年にもわたるご家族へのお願いになるかもしれないのです。
介護は、ある日突然始まるものではありません
介護というと、
寝たきりになったり、車いすを使うようになってから始まるものと思われる方もいらっしゃいます。
しかし実際には、多くの場合、その前から介護は始まっています。
特に認知症の初期は、ご本人もご家族も戸惑いの連続です。
昨日まで普通にできていたことができなくなる。
同じ話を何度も繰り返す。
財布が見つからず、「盗まれた」と思い込んでしまう。
今まででは考えられない言動が見られることもあります。
もちろん、ご本人も混乱しています。
「何かがおかしい。」
そんな不安を抱えながら生活しているのです。
一方、ご家族も、
「どう接したらいいのだろう。」
「何が起きているのだろう。」
と戸惑います。
介護は、このような小さな変化の積み重ねから始まることが少なくありません。
介護は家族の生活も変えていきます
介護が長く続くと、ご家族の生活にもさまざまな影響が出てきます。
仕事を続けることが難しくなり、介護離職を選ばれる方。
高齢の配偶者が介護を担う老老介護。
子どもや孫が介護を支えるヤングケアラー。
介護をする人にも、それぞれの生活があります。
私は終活セミナーで、
「『最後まで自宅で介護してほしい』と、おいそれと書かないでくださいね。」
とお話ししています。
少し意地悪な言い方かもしれません。
でも、それは自宅介護を否定したいからではありません。
介護は、ご本人だけでなく、ご家族の人生にも大きく関わることだからです。
一方で、自宅だからこそ過ごせる時間もあります
ここまで、自宅介護の現実についてお話ししてきました。
だからといって、私は施設での介護を勧めたいわけではありません。
私が今でも忘れられないのは、新型コロナウイルスが流行していた頃のことです。
病院や施設では厳しい面会制限が続き、
会いたくても会えない。
最期に立ち会えない。
病院から亡くなられたという連絡を受けて駆けつける。
そのようなご家族を何度も見てきました。
一方で、ご家族で話し合い、
「最後まで自宅で介護しよう。」
と決断された方もいらっしゃいました。
介護は決して楽ではありません。
それでも、
「最後まで家族で看取ることができて、本当によかった。」
「ゆっくりお別れをする時間を持ててよかった。」
そう話される方もいらっしゃいました。
コロナ禍で、多くの方が「会いたくても会えない」という現実を経験したからこそ、家族がそばで過ごせる時間の大切さを、私自身改めて考えさせられました。
正解はありません
自宅で介護をすること。
施設で介護を受けること。
どちらにも良さがあり、どちらにも大変さがあります。
だから正解はありません。
「自宅で過ごしたい。」という願いも、
「できるだけ家族に負担をかけたくない。」という思いも、
どちらも大切な気持ちです。
だからこそ、ご自身の希望を書くときは、ご家族の暮らしも少しだけ想像してみてください。
例えば、
「できるだけ自宅で過ごしたい。」
「介護が難しくなったら施設も考えてほしい。」
そんな書き方も、一つの思いやりではないでしょうか。
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まとめ
住み慣れた家で過ごしたいと思う気持ちは、とても自然なことです。
その一方で、介護はご本人だけでなく、ご家族の人生にも大きく関わります。
だからこそ、自宅か施設かという二択ではなく、
「どこまで自宅で過ごしたいのか。」
「難しくなったらどうしてほしいのか。」
そこまで考えて希望を書き残すことが、ご家族への思いやりにつながります。
その思いやりが、ご家族にとって何よりありがたい終活になるのではないでしょうか。

