会社の電話が止まった朝の話

その日、朝はだいたい平和に始まるはずだった。
はずだったのに、早朝から社長からの連絡が入る。
「会社の電話が止まった」
ちょっと待ってほしい。
“止まった”ってなに。
詳しく聞くと、かけられないし、かかってもこないらしい。
完全に、あれである。
“死んだ”状態である。
どんな職種でも電話は大事だけど、葬儀社の電話が通じないって、ちょっとした不具合では済まされない。
いや、済まされないどころか、
「今、困っている人、どないすんの?」
である。
その頃にはすでに社長は半ギレどころか、八割くらい仕上がっていた。
お葬儀の開式時間も迫っている。怒りのボルテージも右肩上がりである。
とりあえず私は、半分寝たままの脳みそを引きずって出社した。
弊社の電話は、ちょっとややこしい。
固定電話にかかってきた着信を、インターネット経由でスマホにも飛ばす、いわゆる「クラウドPBX」という仕組みを使っている。
スタッフ全員のスマホで電話が取れる、便利なやつだ。
つまり経路はこうだ。
電話回線 → ルーター → 謎の機械 → インターネット → 各スマホ
…いや、もうこの時点で怪しい。
犯人候補、多すぎる。
まずはルーターを確認する。
ランプは元気にチカチカしている。
こういうときの機械って、だいたい「自分は正常ですけど?」みたいな顔をしてくる。
次に、クラウドPBXの会社に連絡する。
この時点で、社長は怒りのあまり手が付けられない状態だったので、私が引き継いだ。
「いや〜、どうも回線側の可能性が高いですね。こちらの番号にかけてみてください」
言われた通り電話をかける。
すると聞こえてきたのは、
「ご用件に応じて番号を押してください」
という、あの冷静すぎる音声ガイダンス。
いや今それどころじゃない。
1を押すと何が起きるのか、2を押すと誰が出るのか、そんな人生の選択みたいなことを今このタイミングでやらせないでほしい。
しかも、どの番号を押しても、たらい回しにされる未来しか見えない。
横を見ると、社長の眉間のシワが、もはや彫刻レベルに仕上がっていた。
社長から引き継いだ私も、イラッ、イラッ、イラッである。
結局つながったと思ったら、
「修理担当におつなぎしますので、こちらの番号へ…」
いや、もう最初からそこに繋いでほしい。
そりゃもう、すぐにかけた。
するとまた、
「順番に折り返しますので、番号をプッシュしてください」
待ってられるかい。
クラウドPBX業者から別の番号も聞いていたので、そちらにかける。
やっと、人間にたどり着いた。
「確かに御社からの信号が出ていませんね」
おお、人間だ。話が通じる。
「一般の方も含め順番に対応しているのですが、会社の電話ということで大変お困りだと思います。月々3000円のサポートに加入していただければ、優先しておつなぎできます」
「!!!!!????」
「…それって、すごいタイミングのご提案ですね」
(※心の声はもっと荒れていた)
背に腹は代えられない。
「はい、加入します。なので急ぎでお願いします」
完全に、思うツボである。
その間にも、
・SNSで電話がつながらないことを発信
・ホームページにお知らせ掲載
・進行中のお客様へ個別連絡
と、できることは全部やる。
そして、修理の人は早かった。
サポート加入の効果なのかは、あえて考えないことにする。
1時間後には、弊社に到着。
事務所内の電話機、ルーター、謎の機械。
外の配線。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
「場合によっては高所での作業になるかもしれません」
うん、もうなんでもいい。
早く直ってほしい。
そして、昼過ぎ。
「直りました」
…え、もう?
「この事務所を北に出て、次の角のあたりで…」
ん?外?
なんで?
「カラスか何かが、配線をちぎってました」
「!!!!!!!!!!!」
カ、カ、カ、カラス?
カラスのせいで、電話が止まってたの?
爆笑である。
あれだけ右往左往して、
システムだの回線だのサポートだの言っていたのに、
原因、カラス。
しかも、
「自然要因なので、修理費用はかかりません」
なんだそれ。
数日後、テレビでやっていた。
カラスが街中で増えていて、
人を襲ったり、配線を切ったりしているらしい。
いや、ニュースになるレベルなんかい。
もともと私は、カラスとちょっと仲良くなりたいと思っているタイプである。
あの賢そうな感じとか、嫌いじゃない。
だから別に、恨みはない。
ないんだけど。
電話を止めたの、お前か。
もう、笑うしかない。
その日から、外を飛んでいるカラスを見る目が少し変わった。
かわいい顔して、
ときどきインフラを止めにくる。
カラス、あなどれない。
そして今日も、何事もなかったかのように電話は鳴る。
その裏で、いろんな機械と人と、そして時にはカラスまでが関わっていると思うと、
とりあえず、
電話が正常につながることすら奇跡である。
今となっては知る由もありませんが、
あの日、もしお電話がつながらずご迷惑をおかけしてしまった方がいらっしゃいましたら、
この場をお借りしてお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。

